テーマ:「中・高年のための高血圧予防とごはん食の役割」

日本大学医学部教授
日本大学医学部総合健診センター所長 久代登志男先生

本態性高血圧とは?

 現在、日本では、治療を必要とする高血圧の患者さんは4千万人以上いるといわれ、生活習慣病の中で最も患者さんの数が多い病気です。  
 よく使われる本態性高血圧とは、原因がわからないということを医学的な言葉で表現したものです。腎臓病やホルモンの異常などで起こる高血圧と区別するために本態性高血圧と呼ばれています。実際には高血圧の方々の9割以上は本態性高血圧です。原因がわからないので治すことはできませんが、血圧を管理すれば、高血圧の合併症である脳卒中や心臓病を予防できることが確認されています。 高血圧治療の目的は、高血圧の合併症を予防して充実した人生を過ごすことにあります。

生活習慣の改善で本態性高血圧を予防

 収縮期血圧が130 mmHgから139 mmHgまたは拡張期血圧が85 mmHgから89 mmHgの高血圧ではないけれども、少し血圧の高めの方たちは、正常高値血圧と呼ばれています。 正常高値血圧の方たちは、血圧が120/80mmHg未満の人たちに比べると4年後に高血圧になる率が11倍と高く、高血圧の予防を考える必要があります。
 このような方々に対して、体重コントロール、運動、アルコール制限、減塩などの生活習慣の改善指導を積極的に受けてもらったグループと普通の指導を受けてもらったグループについて、その後5年間に高血圧になってしまった割合を示した調査があります。 積極的な指導を受けたグループでは8.8%、普通の指導を受けたグループでは19.2%の人が高血圧になっていました。本態性高血圧の原因は不明ですが、生活習慣を積極的に改善すれば発症率は半分以下に減らせる病気です。  また、健診を受けた正常高値血圧の人たちについて翌年の血圧と体重変化についての調査では、高血圧になった人では体重が増え、正常血圧(120/80mmHg未満)に下がった人では体重が減っていました。  このことから生活習慣の改善によって、本態性高血圧は、かなり予防できることがわかります。
 
正常高値群754例における一年後の収縮期血圧推移と体重変化
 中高年の方々の3割は正常高値血圧ですので、生活習慣の改善を積極的に行なって、本態性高血圧を予防するということがとても大切で、運動不足、アルコールや食塩のとり過ぎに気をつけることが重要です。

本態性高血圧とは・・・

原因不明の高血圧で生活習慣・遺伝が発症に関係している

中・高年の高血圧予防にはお米を主食にした和食を

 高血圧の予防には、適切な体重維持と減塩が重要です。男女ともに中年になると筋肉量が年1%ずつ減り、そのため基礎代謝が少なくなって同じ食事をしていても年に約1kg体重が増える人が多くなります。中年以降の体重増加を予防するためには、運動量を少し増やし、カロリーが多くなりがちな脂肪摂取を減らすことが勧められます。30分余計に歩くと約100kcal消費します。7,000kcal消費すると体脂肪は1kg減るので、2か月で1kg減量できる計算になります。歩けば最も大きな筋肉がある下肢の筋肉量維持と体重増加予防に役立ちます。
 一日の食塩摂取量は、健康日本21(第2次)では8g、高血圧学会のガイドラインでは6g未満を勧めています。現在の日本では平均10~11gですが、6~8割の食塩は加工済み食品からで、調理と食卓での摂取は意外と少ないのです。お店でサンドイッチ、ソーセージ、冷凍ハンバーグなどを買う際は、ナトリウム (Na)含有量を見てください。Na量の2.5倍が食塩相当量になります。素材を買って、ご自宅で調理すれば食塩摂取量は、ずっと少なくすることができます。いきなり厳しい減塩は無理なので、まず今より1割食塩摂取量を減らしてみてください。高塩分食品をとっていると味覚がそれに慣れてしまっているのですが、私達の味覚は、1割の減塩では気がつかないようです。それに慣れたら、もう1割減らしてみてください。しょう油、塩の使用は控え、胡椒、辛子、レモン汁、わさび、だし汁などを上手に使ってください。ごはんは、水分が多く含まれ、糖分はでんぷんで、よく噛んで味わえるので、パンやパスタ、麺、餅などの練製品や砂糖を使う食品より血糖の上昇がおだやかです。

 和食でも素材選び、調理や食卓での調味料の使い方を工夫すれば減塩は十分にできます。ご両親のどちらかが高血圧であると、その素因はお子さんに伝わっています。家族全員で、減塩にチャレンジしてください。