糖尿病の予防・改善のための食事・栄養管理の基本

神奈川県立保健福祉大学学長
中村 丁次先生

 2型糖尿病は、偏った食生活の積み重ねによって発症するといわれるくらい、食事との関係は密接です。また、肥満が2型糖尿病の最大の原因であることから、食事は、エネルギーコントロールをして、栄養のバランスをとることが基本であるとされています。そして、最近は、食後の血糖値を上げないことも重要だといわれるようになっています。食後血糖を上げないようにするには、どのような食事がよいのでしょうか。

食後血糖の変化は、
食品中の成分を足しただけではわからない

 これまでの食事療法は、制限された摂取エネルギーの中で栄養素の必要量をとる目的で、「何を、どのくらい」食べるかが中心でした。しかし、これには食事全体が食後の血糖値に与える影響が考慮されていません。食事は、多くの栄養成分の複合体である食品を組み合わせて調理し、加工していろいろな料理に仕上げて献立として供されます。このように、実際の食事では、食品の組み合わせにより栄養の成分の複合度は増大し、体の中での消化、吸収、代謝における成分の相乗・相殺作用は大きくなります。「何を、どのくらい食べるか」の他に、「どのような方法(食べ方)で食べるか」を考える必要があると思います。

 そこで私たちは、日本人に望ましい食事の組み合わせや、摂取量の目安を示した「食事バランスガイド」*1図1)をもとに、日ごろ、ごく普通に食べている食事メニューを作り、その組み合わせの違いによって食後の血糖値がどう変化するかを調べてみました。

<図1 食事バランスガイド>

図1 食事バランスガイド

 メニューは、主食(ごはん)、副菜(春菊のごま和え、きゅうりの酢の物)、主菜(まぐろの刺身)としました。これらから、@主食のみ、A主食+副菜、B主食+副菜2倍量、C主食+副菜+主菜という4つの組み合わせを作り(図2上)、糖尿病ではない方に順番に、1日以上の間隔をあけて食べてもらいました。

<図2 料理の組み合わせによる食後血糖値>

図2 料理の組み合わせによる食後血糖値

 その結果、AとBを食べた後では@と比べて食後の血糖値に差はみられませんでしたが、主食・副菜・主菜を組み合わせたCでは、他のメニューよりエネルギー量が多く、糖質の量も@Aより多いにもかかわらず食後の血糖値は低くなりました(図2下)。また、エネルギー100kcal、糖質100gあたりとエネルギー量、糖質量を同じにしても食後血糖値は、どちらもCで低くなりました(図3)。

<図3 エネルギー、糖質量を同じにした場合の食後血糖値>

図3 エネルギー、糖質量を同じにした場合の食後血糖値

食品の組み合わせによって食後血糖は変わる

この試験から、食後血糖の変化には、食品中のエネルギーや成分を単純に合計した量だけではなく、食品の組み合わせが強く影響していると考えられます。また、海外の研究例では、食事の全体量とエネルギー量、栄養素の量などを同じにしたときでも、たんぱく質の種類を変えると食後血糖も変わってくることがわかっています。

 食後血糖を管理する方法には、摂取した炭水化物の量に注目したカーボカウント*2や、食品中に含まれる炭水化物の質に注目したGI(グリセミック・インデックス)*3もありますが、今後は、バランスのとれた食事構成、食品の組み合わせも一つの大きなポイントと考えてよいのではないでしょうか。

決して手放してはいけない
「片手にごはん」のスタイル

 日本人の食事の欧米化はいま当然のようにいわれています。しかし、よく考えてみると、私たち日本人は、ごはんを片手に持ち、おかずを食べるというスタイルを失わずにきました。つまり、食事の欧米化は、食生活のすべてではなく、主食のごはんは残しました。そのおかげで、栄養的にも調和のとれた優れた食事が生まれ、世界一の長寿に貢献しているのです。「片手にごはん」のスタイルは、これからも決して手放してはいけません。

 すでにお気づきのように、試験食のCは、和食の代表的な献立の一つです。主食のごはんに副菜と主菜を組み合わせた日本型の食事は、栄養をバランスよくとることができるばかりでなく、食後の高血糖を防ぐ働きも期待できます。1日3食、規則正しく、ゆっくりと、よくかんで、おいしく楽しく食べましょう。

*1 食事バランスガイド:

 健康で豊かな食生活の実現を目的に策定された「食生活指針」を具体的に行動に結びつけるものとして、2005年に厚生労働省と農林水産省が共同で作ったものです。主食・副菜・主菜の組み合わせによって、私たち日本人の食事バランスを適正に保つための方法が示されています。

*2 カーボカウント:

 食事の炭水化物量を測り、それに応じたインスリン量を調整する方法です。

*3 GI(グリセミックインデックス):

 炭水化物が消化されて糖に変化する速さを相対的に表す数値です。


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