ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
研究調査一覧
調理方法及び保存方法による米飯レジスタントスターチ含量の変化について
昭和女子大学 学長 福場博保
研究目的

抵抗性澱粉(Resistant Starch, RS)なる概念が見出されてから約20年が経っているが、今なお、その研究はジャガイモ及び小麦等の澱粉及びその製品に限定され米及び米加工品に関する研究が少ない。このためRS提唱者であるEnglystのデータから米はRSの少ない穀物と考えられてきた。しかし、我々の一般的な生理感覚によれば、米食は糞便排泄に有効な食物と考えられており、米飯が排泄に与える生理機能に関して再評価する必要性を痛感し、この点をin vivo及びin vitroの両面から検討するものである。
生理的な調査としては、女子大学学生を被験者とし穀物として米飯を与えた場合と小麦製品(パン)を与えた場合について便秘頻度を調査し、米飯食が糞便排泄に有効に働くか否かを調査する。
又、加工品についても調整後の保存条件の違いによるRS含量の変化を従来のEnglyst法によって測定し、RS生成に及ぼす保蔵方法の影響について検討する。

実験
(1)米飯、小麦粉製品(食パン)、レトルト飯による投与試験
 

20〜40才の女子学生及び大学職員9名を選び、主食として三食とも、同種の穀類を5日間ずつ摂取し排便状況を観察した。穀類の種類は、米飯(こしひかり)、食パン(敷島パン、超熟6枚切り)、包装米飯(白飯)(東洋水産株式会社)を用いた。対象者には試験開始前にヘルシンキ宣言の精神に則って、試験の目的と方法、試験食品の組成、安全性、予想される試験期間中の生体影響などについて説明し、試験途中でも本人の自由意志で中止できることを伝えて、試験参加の同意を文書によって得た。また、事前に調査を行い、日常の排便習慣について把握するとともに、穀類に対するアレルギー、消化器疾患とその他の疾病の罹患、薬剤使用の有無などを確認し、不適当と判断された者は除外した。
米飯は、米を水洗後、水加減を米重量の1.5倍で炊飯器で炊飯した。保存方法は、炊飯後の米飯を、保温機能のある炊飯器で保存又は、炊飯後そのまま室温で保存し、いずれも15時間までを喫食有効期間とし、量は自由摂取とした。味付きご飯や酢飯など白飯以外の形で摂取することを禁止した。
食パンは、指定した食パンを、そのまま摂取した。
包装飯は、喫食時に電子レンジ600W2分間加熱を行なった。食べ残しは、廃棄した。
米飯、食パン、包装米飯の摂取方法は図1試験概要に示す通りである。


(2)排便状況の調査
 

全試験期間中、排便状況を毎日調査用紙に記入させた。排便習慣は、排便回数、排便量、便の固さ、形状、排便後の爽快感、便の色、消化器症状、朝食摂取の有無、生理の有無と生理に伴う下痢などの項目について調査した。また、各試験期間の食事記録を行った。食事は、朝食、昼食、夕食、間食の区分、料理名、食品名、分量を記入させた。


(3)Englyst法によるNSP(Non Starch Polysacchalide=非澱粉性多糖類)の定量
  1

試料調整

試料として、上記に示した国産うるち米(こしひかり)、食パン(敷島パン、超熟6枚切り)、包装米飯(白飯)(東洋水産株式会社)を用いた。
米は3合(420g)を秤りとり、洗米後ざるに上げ、重量比で1.5倍となるよう水を加え、総重量を1,050gとした。30分浸漬吸水後、炊飯器(ナショナル社製SR-VTM10)にて炊飯した。炊き上がり後、あらかじめ洗って水を切っておいた飯台に移し、ぬれ布巾をかけ放冷した。その後およそ100gずつ精秤し、市販の食品包装用ラップフィルムに包んだ後、冷凍保存用バックに容れ、−20℃の冷蔵庫にて、冷凍保存し、パンも、1枚ずつラップフィルム包み、冷凍保存用バックに容れ、炊飯米同様冷凍保存した。
包装米飯は、表示どおりに電子レンジ(ナショナル電子レンジNE-1401F)加熱を行ない、炊飯米と同様の操作で、放冷、包装、保存をした。
国産うるち米と食パンの2種は−20℃の冷凍庫で4日間冷凍保存した。その後、炊飯米は電子レンジ(700W)で、1分間加熱後、裏返して10秒加熱した。食パンは電子レンジ(260W)で、10秒加熱後、裏返し10秒、さらに裏返し10秒加熱した。その後、2種とも順次脱水・脱脂を行なった。脱水には80%メタノールを用い、脱脂にはクロロホルム:メタノール(2:1、v/v)混液を用いて行なった。
風乾後、収量を測定し分析に供した。

  2

NSPの測定

NSPの定量はEnglyst法を用いた。実験操作は図2に示した。
試料200mgにDMSO2mlを加え沸騰湯浴中で60分間加熱し、デンプンの可溶化を行い、0.1M酢酸塩緩衝液(pH5.2)8ml加え、室温で2分間、タッチミキサーにて撹拌した。次に42℃で2〜3分間予備加熱し、順次、1-アミラーゼ(パンクレアチン)溶液0.5ml(100U)、プルラナーゼ溶液0.1ml(0.1U)を加え、撹拌後、42℃で16時間インキュベーションを行った。その後エタノール40mlを加え、60分間室温にて放置後、遠心分離(1,500g×10分間)し残渣を得た。その残渣に85%エタノール(50ml×2回)、アセトン(40ml×1回)を順次加え、洗浄・乾燥を行った。次に12M硫酸を2ml加え、35℃にて60分間置後、水22mlを加え、沸騰湯浴中にて2時間加熱した。その後、比色法(ジニトロサルチル酸法)にて定量を行った。

結果及び考察

(1)米飯、小麦粉製品(食パン)、レトルト飯による摂取試験による排便習慣への影響
  1

被験者の特性

表1に被験者の身体状況を、表2各種投与期間の排便状況を示した。各種試験食品摂取期における排便回数は、包装米群が多く、炊飯米群と食パン群では、食パン群の方が少なかった。排便量は、炊飯米群と食パン群はほぼ同じだが、包装米群は僅かに多かった。便の固さ・形状は、包装米群が他群より柔らかい状態であった。消化器症状は、炊飯米群では特別な症状はなかったが、食パン群では、炊飯米群より腹が張る、という症状があった。又、三食ともにパン食を食べることへの抵抗感も強かったようである。包装米群では、排便回数の増加や、便の固さ・形状に軟便化が認められ、同じ米飯食でも炊飯米よりも食べにくかったと思われる。

  2

被験者の栄養摂取量

表3に炊飯米群、食パン群及び包装米群の各摂取試験期間中の食事調査から栄養摂取量について示した。炊飯米群の米飯摂取量は、1食当り100〜180gくらいで、栄養所要量に対する充足率は比較的バランスがとれていた。食パン摂取量は、1食当り1枚から1.5枚(=70〜105g)であった。脂質エネルギー比が37%と少し高く、パンに塗るバターや、一緒に供する副菜も油を使った料理が多くなる傾向が見られた。包装米群の米飯摂取量は、150〜200gくらいであった。炊飯米群に比べて摂取量が少し多いが、これは、包装米1食あたりが200gのパックであったことが、要因と考えられる。1食当りの食物繊維の摂取量は、炊飯米群12.0g、食パン群14.8g、包装米群12.4gでかなり少なく、食物繊維不足の傾向が見られた。


(2)Eglyst法によるNSPの定量
 

Eglyst法によるNSPの定量結果を表4に示した。RS量の測定方法は未だ確立されていないので、今回はNSP量を求め、RS量変化の目安とした。(即ち、NSP量にはRS量を含まず、この数値の減少は一部RS量の増加を示すと考えている)炊立ての米飯と購入直後の食パンとそれぞれ冷凍、再加熱を繰り返した米飯と食パンは、わずかながらNSP量が減少した。既に、Englystら1)は、馬鈴薯によってこれらの操作を繰り返すことによって、RS量が増加することを明らかにしている。RSは、生の食品自体にはほとんど含まれていないといわれている。したがって、澱粉の老化により新たに生成され、その含量が高くなると考えるのが一般的である。そこで、本実験では、米を炊飯器を用いて炊いた後、家庭の冷蔵庫で冷凍、再加熱を繰り返した場合に、NSP量が減少する事が認められた。同様に食パンにおいてもその変化が認められた。米飯とパンを比較すると、米飯の方がRSは多いとされている。しかし本実験では、米に比べ、食パンの方が僅かにNSP量が多かった。米は、電子レンジ加熱で炊立ての状態まで再加熱したのに対し、食パンは、焼いた(=トースト)のではなく、電子レンジ加熱によって市販されている状態に戻したので、食パンに、かなりの水分が含まれていたと考えられる。この状態で再び冷凍と電子レンジによる再加熱を繰り返したことがNSP量増加に影響したかもしれない。更に、包装米についても同様の方法で処理した試料について、NSP量を測定した結果、炊立ての米飯とほぼ同じ結果であった。今回試料に用いた包装米は1種類だったので、各メーカーによる加工技術の差を考慮し、例数を増やす必要を感じた。
一般に、澱粉食品のRS量は、2〜10%といわれているが、RS量のみを測定する方法は確立されていない。さらに、小腸での消化吸収を免れるRSは消化酵素の物理的な接触が不可能な澱粉(RS1)、消化酵素の化学的作用を受け付けない澱粉(RS2)、調理後の老化澱粉(RS3)に再分類されている(表5)。特に、消化に対する抵抗性は澱粉粒の一部が結晶構造をとることによるが、これには物理的要因(即ち加熱や解凍)も強く影響すると考えられる。この結果、消化酵素が澱粉粒に十分作用しない状況が生じることも考えられる。また、RS含量の高い食品はGI(Glycemic Index)が低下するとも考えられている。つまり、RSの存在が、可消化性澱粉への酵素の作用を低減させ、消化速度が低下し、吸収されるグルコース量が低下又は遅延することを反映した結果と考えられている。
今回、摂取実験を実施した被験者群の消化器症状は、米飯米群・食パン群・包装米群をそれぞれ比較すると、米飯群期間はあまり特別な症状はなかった。食パン群は特に後半期に、便秘を自覚するものが多かった。J.G.Muir等は、米飯とパンのRS量を比べると、米飯の方がかなり多く含まれていると報告している2)。したがって、米飯では食物繊維に加え、それとほぼ同じ働きをするRSが含まれているのに対し、パンでは、RS量が少ないため、今回のパン食群において便秘を自覚したものがあったと考えられる。また、三食ともに米飯または、食パンを食べる際に、和風・洋風を問わずどのような副菜とも合わせやすいのは米飯であり、食パンにあう副菜は、どうしても洋風のもので且つ、調理や供する際に油を使ったものが多くなる傾向があると考えられる。これは、食パン群期間の脂肪エネルギー比が他の期間に比べて高かったことの要因とも考えられる。一方、包装米群は、摂取開始直後から排便回数の増加や、軟便化を認めるものが多かった。包装米の製造過程は、糊化澱粉の老化の進行をできるだけ最小限に抑えるように配慮されていると考えられるが、実際の加圧量や、保存温度によって、一部の澱粉粒が結晶構造をとることにより消化酵素が働きにくくなる等の影響が考えられる。
今後、冷凍・電子レンジによる再加熱を繰り返した炊飯米を用いた摂取試験を行い、RSの消化器症状や便性状への影響を調べる。また、摂取期間を5日より少し延長し、主食と副菜の食品とのバランスを検討することも必要と考えられる。また、Englyst法により、冷凍・再加熱の条件を変えた米飯及び包装米のRS量の測定を行い、比較検討する必要があると考えられる。

参考文献
1)

H.N.Englyst,J.H.Cummings. Am J Nutr 45:423-31,1987

2)

J.G.Muir,K.O'Dea.Am J Clin.Nutr.,Vol.56,123 ,1992


米ネット トップページ 研究調査一覧

制作 全国米穀協会 (National Rice Association)
このホームページに掲載の文章・写真・動画像 および音声情報の無断転載・転用を禁じます。