ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
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若齢期の食歴が熟齢期の栄養摂取に及ぼす影響
筑波大学体育科学系運動栄養学 教授 鈴木正成
研究目的

人間は中年から基礎代謝を低下させることによって、体の脂肪分解力の低下を招く。この加齢に伴う生理的変動に対して、欧米人は中年以降も高脂肪食を摂り続けて脂肪過剰摂取による体脂肪蓄積や動脈壁への脂肪沈着を促進して肥満や冠状動脈疾患等の健康問題を多発させる。一方、日本人は中年を迎えると脂肪の摂取を自然に減らして肥満や心臓病などを抑えてきた。この差は、日本人の場合、幼若年期にごはんを中心に食べて、高糖質食から高脂肪食まで幅広く体験する食歴を持つこと、そして欧米人は幼若期に高脂肪食を偏食する食歴を持つことによる可能性がある。本研究はこのことを、ラットを用いて検証することを目的とする。
幼動物を2群([A]高脂肪食―高脂肪食群と[B]高脂肪食―高糖質食交互群)に分け、1日2食制で飼育する。一定期間後、高脂肪食と高糖質食を同時に給餌する食餌選択摂取試験をし、各食餌の摂取量を測定する。その後、さらに両群を、生理食塩水を投与する群と老化ホルモンであるグルココルチコイドを投与する群に分け飼育を続ける。実験全体を通して[A]群に比べて[B]群において、高糖質食の摂取量、および高脂肪食に対する高糖質食の摂取比が大きい場合、仮説が証明されたと判断する。
ごはん食の健康性は、年代にあった栄養摂取を容易にすることである。本研究により幼若期におむすび(高糖質食)からステーキ食(高脂肪食)まで体験することが、中年から脂肪摂取を自然に減らす食べ方の展開につながるという、ごはん食の本質的な意義を指摘することができると思われる。

方法

4週齢のSprague-Dawley 系ラット40匹を、室温22±1℃、湿度60%、明暗サイクルを7:00〜19:00明期、19:00〜7:00暗期とする飼育室で1週間予備飼育後、無作為に2群に分けた。給餌タイミングを2食制(7:30〜8:30及び19:30〜20:30)とし、[A]群(高脂肪食―高脂肪食群)には7:30〜8:30と19:30〜20:30のいずれでも高脂肪食を与え、[B]群(高脂肪食―高糖質食交互食群)には7:30〜8:30に高脂肪食、19:30〜20:30に高糖質食を与えた。飲水は自由とした。10週間(5〜15週齢)飼育した後、両群に高脂肪食と高糖質食を同時に給餌する食餌選択摂取試験を3週間(16〜18週齢)実施し、各食餌の摂取量を測定した。その後[A]群と[B]群を、それぞれ無作為に生理食塩水を投与する群(S-AおよびS-B群)と老化ホルモンであるグルココルチコイドを3週間投与した(G-AおよびG-B群)。その間A群には高脂肪食―高脂肪食を、またB群には高脂肪食―高糖質食を与えた。グルココルチコイド投与後再び、両群に食餌選択試験を3週間(21〜24週齢)実施した。

結果
1

体重はグルココルチコイド投与により低下したが、投与後徐々に増大した。生理食塩水投与群は最初の1週間は体重は低下したが、その後徐々に増大した(図1)。

2

エネルギー摂取量は[A]群にくらべて[B]群で小さかった(図2)。

3

食餌選択摂取試験:高糖質食の摂取量は食餌選択摂取試験開始直後では、[A]群に比べて[B]群で大きかった。[B]群で高糖質食の摂取量は徐々に減少するものの、3週目でも[A]群に比べてやや大きかった。また、[A]群では高糖質食に対し高脂肪食摂取比は圧倒的に大きいのに対し、[B]群では食餌選択摂取試験の開始直後において、同等であった(図3)。

4

[A]群と[B]群のいずれにおいても、グルココルチコイド投与によって生理食塩水投与群に比べてエネルギー摂取量は著しく低下した(図4)。

5

グルココルチコイド投与と生理食塩水投与後の食餌選択試験:高糖質食の摂取量は食餌選択摂取試験開始直後では、[A]群に比べて[B]群で大きかった。[B]群で高糖質食の摂取量は徐々に減少するものの、2週目から[B]群で[A]群に比べてやや大きかった。また、[A]群では高糖質食に対する高脂肪食摂取比が圧倒的に大きかった。[B]群でも2週目までは高脂肪摂取量がだんだん増大したのが高糖質食もやや増大した。[A]群と[B]群のいずれでも、グルココルチコイド投与によりエネルギー摂取量が生理食塩水投与に比べて大きかった(図5図6)。

6

内臓脂肪量はグルココルチコイド投与群では副睾丸、腎周囲、および総腹腔内脂肪組織の体重比(%)が[A]群で[B]群より大きいのに対し、腸間膜脂肪組織の体重比(%)は[B]群で[A]群より大きかった。生理食塩水投与群では、腸間膜脂肪組織の体重比(%)は[B]群で[A]群より大きく、その他の部位では食餌の影響はほとんど認められなかった。

要約

幼若年期に高糖質食から高脂肪食まで幅広く体験する食歴を持つことが、成熟期および老齢期の食餌の嗜好性に影響するか否かをラットを用いて検証した。その結果、幼若年期に高脂肪食のみを摂取したラットは、成熟期においても高脂肪食を好んだ。それに対して、幼若年期に高脂肪食のみを摂取したラットに比べて幼若年期に高糖質食と高脂肪食を交互に摂取した食歴を持つラットは成熟期においても、徐々に高脂肪食への嗜好を強めるものの、高糖質食を好んで摂取した。また、グルココルチコイド投与により食餌摂取量は低下したが、グルココルチコイド投与時においても、高脂肪食と高糖質食交互摂取群では幼若年期に高脂肪食のみの食歴をもつラットに比べて高糖質食に高い嗜好を示し、徐々に高脂肪食摂取量を増やすことが観察された。さらに、幼若年期に高糖質食と高脂肪食を交互に摂取した食歴を持つと、グルココルチコイド投与時には、腸間膜脂肪組織以外の部位で体脂肪の蓄積が抑えられた。


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