ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
研究調査一覧
米飯を食する習慣と血清脂質値、肥満度、耐糖能異常との関連に関する研究
滋賀医科大学医学部医学科福祉保健医学講座 教授 上島弘嗣
研究協力者:慶應義塾大学衛生学公衆衛生学 武林 亨、滋賀医科大学福祉保健医学講座 岡村智教
研究目的

米飯を食する習慣の多い人は、エネルギー摂取が炭水化物から多くなり、逆に、脂肪からのものが少なくなる。このことから、血清脂質、とりわけ、血清総コレステロール値は低くなることが予測される。事実、厚生省の循環器疾患基礎調査、国民栄養調査成績を用いて、われわれは、昨年度の研究によりこのことを示した。
今年度は、さらに中年期勤労男女の7,000人の調査成績を用いて、米飯を食する習慣が血清総コレステロール値と肥満度、耐糖能異常にどのような影響を与えているかを検討する。

対象と方法

対象は、「厚生科学研究 青・壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究(研究代表者 上島弘嗣)」のベースライン調査に参加した12事業所に勤務する男性・女性労働者である。研究全体では、20歳前後から60歳前半までの労働者を対象とするが、本報告では40歳から59歳までの3,146名(男性2,538名と女性608名)を対象とした。これは、労働安全衛生法によって、定期健康診断時に血液検査の実施が義務づけられているのが40歳以上であることによる。その分布を表1に示した。
米飯の摂取は、「あなたの普段の食生活を知るための食生活質問票」によって全員から得た。質問票は、食品群単位で摂取機会が多いと思われる代表的な食品の常用使用量を単位に、その摂取頻度と摂取量を質問する内容(量頻度法)と、特定の食行動の出現頻度を質問する内容から構成されている。本質問票は自記式質問票であり、できるかぎり記入者の負担を減らす目的で、質問内容を簡潔に、質問数も最小限度に設定して、本研究のために新たに開発したものである。米飯の摂取頻度は、米飯(朝)、米飯(昼)、米飯(夕)、味付けごはん(炒飯、カレーライスなど)のそれぞれについて、「食べない」「週1回以下食べる」「週2〜3回食べる」「週4〜5回食べる」「毎日1回食べる」「毎日2回食べる」「毎日3回以上食べる」のいずれかから選択する形式で調査した。また同時に、それぞれ基準量を「中茶わん1杯」(およそ135g)、「カレー皿1杯」(およそ250g)として、「基準量の半分以下」「基準量程度」「基準量の1.5倍」「基準量の2倍以上」のいずれかから選択する形式で、摂取量についても調査した。同時に、大豆製品の摂取(豆腐、凍豆腐、厚揚げ、がんもどき)の摂取頻度と摂取量(基準量 豆腐1丁またはもどした凍豆腐1枚、およそ300g)についても情報を得た。
血液検査については、血清総コレステロール、血糖の2項目を用いた。これらは、各事業所での健康診断時に空腹条件下で採血し、それぞれの検査機関で測定したものである。複数の検査機関のデータをまとめて比較するため、血清総コレステロールの測定値については、CDC/CRMLNによる標準化を行った。これは、米国CDCを中心に組織されているUS Cholesterol Reference Method Laboratory Networkによる精度管理であり、各検査施設は脂質標準化のPhase I(血清総コレステロール)の認証を受けた。また、肥満度の指標として、Body Mass Index(BMI、kg/m2)を用いた。
解析にあたっては、各食ごとの米飯の摂取頻度を週1回以下 0.14、週2〜3回 0.36、週4〜5回 0.64、毎日1回 1、毎日2回 2、毎日3回 3として一週間あたりの摂取合計を求め、さらに一日あたりの摂取頻度に換算して、「一日1回未満」「一日1回」「一日2回」「一日3回」の4群に分けた。また同様の方法で、摂取基準量を用いて一週間あたりの摂取量合計を求め、さらに一日あたりの摂取量に換算して、「一日1膳未満」「一日1膳」「一日2膳」「一日3膳以上」の4群に分けた。
これらを米飯摂取の指標として、男女別に、米飯摂取と血清総コレステロール、血糖、肥満度の平均値の比較を一元配置分散分析(ANOVA)によって行った。さらに、血清総コレステロールと血糖については、年齢、肥満度、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣を共変量とした重回帰分析法により、「一日1回未満」群あるいは「一日1膳未満」群を基準とした場合の、各群との血清総コレステロール値と血糖値の差を求めた。また、米飯摂取で層化した上で、大豆(豆腐類)の摂取頻度別(週1回以下、週2〜5回、毎日1回以上)にコレステロール値、血糖値を比較する解析も実施した。なお、各項目に記入漏れや検査未実施がある場合には、欠損値として扱い、解析からはずした。

結果

性、年齢別に見た、毎食ごとの米飯摂取頻度の分布を表2に示した。昼食では、男性の55%、女性の68%が毎日米飯を摂取し、夕食では、男性の70%、女性の78%が毎日米飯を摂取していた。
表3図1には、摂取頻度別、摂取量別の血清総コレステロール値、血糖値、BMIの平均値を比較した結果を示す。男性では、摂取頻度が一日1回未満の者に比較して、一日1回以上の各群でコレステロール値が低い傾向があったが、統計学的に有意な差ではなかった。摂取量別でも、各群間に差はなかった。一方、女性では、米飯の摂取頻度が高くなるにつれて総コレステロール値が低下する傾向があり、ANOVAで統計学的に有意な差があった(P<0.05)。とくに、摂取頻度が一日1回未満(総コレステロール値214mg/dl)・一日1回の群(総コレステロール値211mg/dl)に比較して、一日2回(総コレステロール値203mg/dl)・一日3回(総コレステロール値202mg/dl)の群の総コレステロール値が低かった。摂取量別でも同様であった。
なお、各群の平均年齢は、男性では一日1回未満群47.8歳、一日1回群47.3歳、一日2回群48.0歳、一日3回群49.0歳、女性では一日1回未満群50.7歳、一日1回群47.8歳、一日2回群47.4歳、一日3回群48.5歳であった。血糖値、肥満度には差は認められらなかった。
さらに、血清総コレステロール値や血糖値に影響しうる因子として、年齢、肥満度、運動習慣、喫煙習慣、飲酒習慣を調整して、米飯摂取が与える影響を検討した。偏回帰係数は、一日1回未満群を基準とした、各群のコレステロール値、血糖値との差である。表4には、血清総コレステロール値の結果を示した。男性では、一日1回未満群と他の群との間には有意な差はなかったが、女性では、米飯の摂取頻度・摂取量が増えるにつれてコレステロール値が低下し、一日3回群は18mg、一日3膳群は14mg低かった(P<0.05)。また、年齢も、1歳増加するに伴ってコレステロール値が2mg/dl上昇する結果であった。
さらに、男性について、米飯の摂取頻度で層化して、各群内で大豆(豆腐)の摂取頻度ごとの血清総コレステロール値を比較した。統計学的に有意な差ではなかったが、いずれの米飯摂取頻度群内でも、豆腐類の摂取頻度週1回以下群に比較して、毎日1回以上群のコレステロール値は、4〜8mg/dl低かった。
血糖値については、年齢などの影響を調整した後、米飯の摂取頻度との間に統計学的に有意な関係は認められなかった(表5)。

考察

昨年度実施した平成7年度国民栄養調査のデータ、すなわち一般住民データを用いた解析の結果(1)に続き、職域データを用いた解析でも、米飯の摂取が増えると血清総コレステロール値が低下していた。このことは、とくに女性で明らかであり、年齢、BMIなどを考慮しても、米飯一日1回未満群と一日3回群では18mg/dl、米飯一日1膳未満群と一日3膳群では14mg/dlの差であった。米飯一日1回未満群のn数は小さいのでこの群を除外して解析を行った場合でも、米飯一日1回群と一日3回群との間にはおよそ10mg/dlの差があった(data not shown)。
このことは、穀類・魚介類の摂取が多い食生活形態では、脂肪の摂取量が少なくなるために、結果として総コレステロール値の上昇を予防することになるためと考えられる。これは、摂取エネルギーに占める脂肪の比率が増加すると炭水化物とくに穀類からの比率が低下し、そのため血清コレステロール値が高くなり、動脈硬化性心疾患が増えるとのecological studyの結果からも明らかである(2)。
一方、男性では、米飯の摂取が増えても血清総コレステロール値の低下の程度は小さく、最大で4mg/dl程度であった。摂取量別では、摂取量の多い群の方がむしろコレステロール値が高い傾向であった。これは男性では、米飯とともに、脂肪類の摂取も同時に増加しているためである可能性がある。そこで、米飯の摂取だけでなく食物繊維を多く含む大豆類の摂取頻度も考慮した解析を行ったところ、いずれの米飯摂取頻度群でも、豆腐類の摂取頻度週1回以下群に比較して、毎日1回以上群のコレステロール値が低くなっていた。
食物繊維の摂取と高コレステロール血症との関係を検討した総説(3)によれば、水溶性・高粘性の食物繊維はコレステロール代謝の改善作用をもち、そのため血清総コレステロール値を低下させる効果があるという。Ripsinらの検討では、一日あたり約3gの水溶性食物繊維を食事に補足して摂取すると、総コレステロール値が5〜6mg/dl低下するという(4)。水溶性の食物繊維は、豆類、こんにゃく、海藻類、野菜、果物など、日本の伝統的な食物に多く含まれていることが知られている。したがって、穀類とくに米類と魚介類を中心とし、かつ豆類、海藻類、野菜類を多く摂る日本の伝統的な食事習慣は、血清総コレステロール値の上昇を抑制し、動脈硬化性疾患を予防するという観点から、大変価値が高いと考えられる。

要約

「青・壮年を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究」のベースライン調査に参加した40歳から59歳までの労働者3,146名(男性2,538名と女性608名)を対象として、米飯摂取と血清総コレステロール、血糖、肥満度との関係を、測定値の精度管理が行われている信頼性の高いデータを用いて検討した。その結果、女性では、年齢、肥満度などの因子を調整しても、米飯の摂取頻度が高いあるいは摂取量が多い群ほど、血清総コレステロール値が低かった。また、男性では、同じ程度の米飯摂取習慣であっても、大豆類(豆腐類)の摂取頻度が高い者の方が血清総コレステロール値が低い傾向にあった。
以上より、青・壮年(年齢40から59歳)の職域集団においても、米飯の摂取、食物繊維の摂取が、血清総コレステロール値の抑制には重要である。

謝辞

データ解析及び文献収集ではピッツバーグ大学の関川暁先生、山梨医科大学の王培玉先生に大変お世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。

文献
1)

上島弘嗣、岡村智教、喜多義邦ほか。米飯を食する習慣と血清脂質値との関連に関する疫学研究。平成12年度ごはん食基礎データ蓄積事業報告書、2001年。

2)

Anonymous Report of the Working Group on Arteriosclerosis of the National Heart, Lung, and Blood Institute, Arteriosclerosis 1981, vol 2, US Department of HHS, PHS, NIH.

3)

斎藤衛郎、高橋敦彦、武林亨。高コレステロール血症の改善、虚血性心疾患および糖尿病予防のための食物繊維の適正摂取量。J Jpn Soc Nutr Food Sci 2000;53:87-94.

4)

Ripsin CM, Keenan JM, Jacobs DR Jr, et al. Oat products and lipid lowering. A meta-analysis. J Am Med Assoc 1992;267:3317-25.


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