ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
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米食と小児の健康に関する研究─小麦、米蛋白質と患者血清との反応に対する検討
昭和大学医学部小児科 教授 飯倉洋治
研究協力者:田中和子高橋 円養父佐知子
はじめに

近年のアレルギー領域で、最も問題になっていることの一つに食物アレルギー患者の増加がある。そして、原因食品の検討を行なうと、本邦の3大食物アレルギーの3番目に、従来は大豆であったがそこに小麦が登場してきた。このことは本邦の食生活が変わってきたことを推察させる結果と言える。
この結果を現実的に考えると、パンは便利な食べ物であり、筆者等の品川区の学童に於ける「食と健康の調査」で朝食にパン食がご飯食とほぼ同数であった。しかも、祖父母、両親と子どもを比べると、段々とパン食が増えている。このように、パン食の頻度が多くなると、アレルギーの原因として問題になってくると考える。
このように考えると、その根拠の検討も必要になってくる。そこで、今回は日本人の主食である米と小麦のタンパク構成について検討を行ってみた。

対象と実験方法
(1)対象
 

小麦と米の両方、またはどちらかを食べて、アレルギー症状を呈した事がある者で、しかも、即時型アレルギー反応の時に関与するといわれる特異IgE抗体を有する12名の患者血清に関して検討を行なった。
それら患者のそれぞれのRAST scoreは表1の如くである。


(2)実験方法;抗原液の抽出
 
アメリカ産小麦 薄力小麦 ウェスタン・ホワイト(WW)
アメリカ産小麦 強力小麦 ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)
国産小麦 普通小麦 農林61号 群馬県産
パン フランスパン (強力粉、塩、イースト、水)
秋田小町
ご飯 秋田小町
 

以上の6種類を1M NaClまたは4M Ureaを重量の5倍量加え、4℃で一晩振盪した。
その後、10,000rpmで30分間超遠心を行い、上清をろ過したものを抗原液とした。
蛋白定量はBio-Radのprotein assay kitを用いbovine serum albuminをstandardに行った。


(3)SDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
 

還元下で4〜20%のgradient gelを用いて行い、染色はクマシー染色を行った。


(4)IgE-immunoblotting
 

SDS-PAGEで分画した蛋白質をPVDF膜に電気的に転写した。
この膜を3mm幅にカットし、患者血清と一晩反応後、二次抗体goat anti human IgEと反応させNBT/BCIP試薬で発色させた。

結果
(1)各抗原のタンパク量は下記の如くであった。
 
蛋白量は以下の通り (mg/ml)
    1M NaCl 4M Urea
薄力小麦 ウェスタン・ホワイト(WW) 1.560 5.665
強力小麦 ダーク・ノーザン・スプリング(DNS) 1.702 5.830
普通小麦 農林61号 群馬県産 1.620 5.475
フランスパン (強力粉、塩、イースト、水) 0.013 0.129
秋田小町 1.126 3.110
ご飯 秋田小町 0.216 0.339

(2)SDS-PAGE
 

図1は小麦とフランスパンのSDS-PAGEを示したものである。
強力小麦、普通小麦、薄力小麦という種類による蛋白質のバンドの相違は見られず、抽出方法による相違が見られた。4M Urea抽出は35〜38kDaにかけて2本の鮮明なバンドと40〜47kDaにかけて複数のバンドを示したが、1M NaCl抽出は38kDaに1本の鮮明なバンドと50〜55kDaに複数のバンドを示した。
フランスパンの4M Urea抽出は蛋白濃度が薄いため、バンドは鮮明ではないが、4M Urea抽出の小麦と同じ泳動パターンを示した。1M Nacl抽出は25kDa以下のバンドがクマシー染色で見られるにとどまった。
図2は米とご飯のSDS-PAGEを示したものである。
米の4M Urea抽出、1M NaCl抽出はともに9〜14kDaにかけての複数のバンドと24kDaに鮮明なバンドを示したが、32kDaは4M Urea抽出のみが示した。
ご飯は4M Urea抽出が24kDaと32kDaにバンドを示し、1M NaCl抽出は蛋白濃度が薄く、鮮明なバンドは見られなかった。


(3)IgE-immunoblotting
 

図3はIgE-immunoblotting試験で、4M Urea抽出と1M NaCl抽出の国産普通小麦に対する患者血清の反応を示したものである。Lane 1とLane 10の血清は1M NaCl抽出では2本のバンドに反応を示すに留まったが、4M Urea抽出では複数のバンドに反応を示した。しかしLane 11の血清は1M NaCl抽出に多くの反応を示した。また1M NaCl抽出の30kDaのバンドに複数の血清が鮮明な反応を示した。
図4は4M Urea抽出を行った強力小麦(DNS)と薄力小麦(WW)に対する患者血清の反応を示した。
強力小麦と薄力小麦ともに同じような反応パターンを示した。複数の血清が反応したバンドは15、38, 50kDaであった。
また、図5は4M Urea抽出と1M NaCl抽出の米に対する患者血清の反応を示したものである。この検討では、Lane 13のコントロールも10, 23kDaに反応をしめしたため、コントロールより強い反応を示したものを陽性とした。4M Urea抽出、1M NaCl抽出ともに30kDaに複数の血清が反応を示した。4M Urea抽出は1M NaCl抽出に比べ鮮明な反応を示すバンドが多く見られた。
次に、フランスパンとご飯に対する患者血清の反応を図6に示した。
ご飯は30kDaに反応を示すものが多いのに対し、フランスパンは反応を示した血清のほとんどが複数のバンドに反応を示した。

考察

今回米と、小麦のタンパク成分の検討をアレルギー患者血清を用いて行った。
SDS-PAGEによる小麦、米の蛋白質分画において、小麦は米に比べて、多くの蛋白質に分解された。
また、小麦アレルギー患者の血清は多くの小麦タンパク質の分画と反応することが判明した。このことが小麦アレルギー患者の管理が難しい一つの根拠と考えられた。
従来の報告では、米16kDaのタンパクは強いアレルゲン性を有するとされていたが、今回の結果は30kDaに反応する者が多く、従来の報告と異なる結果であった。この違いは用いた米の種類によるものか、抗原抽出法の違いによるものかはっきりしないが、非常に興味ある結果であった。
今回のIgE-immunoblottingの検討で興味深かったことは、ご飯と反応する血清は、30kDaのタンパクとのみ反応する症例が多かった。一方フランスパンでは複数の蛋白質と反応する症例が多かった。
ご飯食によるアレルギー患者が少ないことを考えると、今回の研究結果は納得のいくものと言える。またこの結果は、米アレルギー患者と小麦アレルギー患者間でアレルギー症状のコントロールに違いが生じる背景とも取れる。
今後は臨床症状と患者血清が反応するタンパク質との相関、小麦と米に特異的IgE抗体を有する患者が、米、小麦両方のタンパクに交叉反応性を有するかの検討が必要と思われる。


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