4-2 縄文人は米を煮て食べていた?

4-2 縄文人は米を煮て食べていた?

 栽培された米はほとんどがウルチ米でしたが、モチ米もありました。ではこれらの米をどう調理して食べたのでしょう。考古学では稲作が行われた当初はコメを煮て調理し、のちに蒸す方法にかわり、さらに中世になって釜で炊く方法へと戻ったといわれています。

 確かに出土する弥生式土器には飯のこげつきやおねばのふきこぼれたあとの残ったものもありますが、それは粥を炊いた時のもので、飯はやはり蒸したのではないかと思われます。

 肌の弱い素焼の土師器の堝(こなべ)ではいったん焦げますと再びその土器を使うことはできません。もし土器で米を炊いたのならその焦げつきをどのように して防いだのでしょうか。下から湯を沸かすのには土師器を使い、米を蒸すこしきは、より丈夫な須恵器で作って上に置く使いわけ技術が伝わるのは五世紀に なってからのことです。そこで土師器のこしきで試したところ能率が悪くて時間がかかり、燃料もたくさん要りますが、水を打ちつつ蒸す方法をとると失敗がな く、安定した飯が作れます。もしかすると木製のこしきが弥生時代にあったのかも知れません。奈良時代になると鉄の釜や木製の曲物のこしきが使われていま す。釜はかまどにかけるものもあったのでしょうが、かなえといって足のついた釜が使われました。この頃平城京に勤める官吏には給食が支給され、これら大勢 の人たちのために飯を炊くのに土堝ではこと足りず、大きなかなえに湯を沸かし、曲物の大きなこしきに洗った米を入れ、水をふりかけながら蒸し上げたので す。その強飯を大きな櫃に移し、めし椀に高盛りにして給仕したのです。ウルチ米で実験をしてみましたが、約1時間で上出来の強飯ができます。

 一方、粥も寺院の僧侶たちの供養料として炊かれました。疫病の食餌療法として病人たちに布施もしました。
 粥には水分の多い汁粥と水分の少ない厚(かた)粥がありました。平安時代になると粥にアズキやソバの実、アワ、焼グリ、野菜を加えたものがあらわれ、そ のほかにアワビやカツオ、ワカメなどを加えた新しい粥も登場します。しかも味噌で味つけした“みそうず”なども生れました。

 一方、固粥は飯としての姿を見せはじめ、蒸して作る強飯に比べ、柔らかいので姫飯とよばれるようになります。平安末期を経て中世に入り鉄や高温で焼いた 陶器や瓦器の釜が普及すると(平安末期から鎌倉初期にかけての遺跡といわれている愛知県知多半島の椎の木山古窯部からつばつきの土製釜が出土している。こ れが、今日にもひろく使われている羽釜の祖型と考えられている。)、ウルチ米は炊いて飯にされ、炊いても飯になりにくいモチ米が強飯として残り、儀式の時 などの食べ物になるのです。その二つの流れが現在まで受けつがれているわけです。 

羽釜(はがま)
 釜に鍔(つば)を巻いて<羽釜>を考案したのは日本人の知恵です。中国大陸から入って来た鉄製の釜(鍋)は図4のように土製の竈にはめこみ式になっていて、釜の上端部と竈の上端部とは同じ高さに頭をそろえているので、釜は竈の中にスッポリと落ち込んでしまいます。朝鮮式・中国式の釜は釜底の火力を受ける面積を少しでも広くしようとするものですが、その代り釜と竈は造りつけで、釜をいちいち取り外すことはできません。日本はきれいな水が豊富なので何でも水で洗い清めるという潔癖があり、釜も取り外して底の煤までも洗えるように、取り外し式の羽釜が生まれました。朝鮮など大陸では水が不自由で、ふんだんにものを洗うことが出来ません。日本人特有の釜を取り外して洗う考えから、取り外し自由な、釜が竈の中にスッポリ落ち込まないように鍔(つば)=羽をとりつけることを考え出したのです。


羽釜解説 

 平安時代の公卿の日記によると、元旦は強飯、3日は姫はじめといって、普通の白い飯。しかも、この飯を山盛りにするのがしきたりで、この習慣は庶民の食卓にも影響しました。

 江戸時代には、2度炊きする方法もおこなわれていたようです。米と水を釜に入れて火にかけ、沸騰後しばらく炊いてから粘り気のある白湯を捨て、再び蒸し て仕上げる方法(湯取り法)で、だいたい20分も蒸せばでき上ります。これは今でも中国や東南アジアで実際に行われています。多少パサパサしますが、夏で もいたみにくく、稲作りに精を出す梅雨から盛夏、三度の飯を炊く時間も惜しんだ農民にとって、湯取り法はかけがえのない炊飯法でした。一日一回炊けば済み ましたから。そのうえ蒸し暑い盛夏でも2度炊きは腐敗しにくいのが特長です。

 江戸時代も中頃になると従来はみられなかったぶ厚いふたをつけた釜が普及し、おいしい飯の炊き方が定着し新米、古米によって水の量を加減し、水分を米が 吸収してしまうまで炊く、炊き干し法が完成します。「初めチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いてもふたとるな、三歩下ってさるねむり」もこの頃の作で、私た ちが日常使っている自動炊飯器も理論は同じ。いかにおいしい飯を炊くかを計算して設計されているのです。

 たいていの場合は、米に水を加えて炊きあげますが、すし飯など大量の米を炊く場合は、沸騰した湯に米を入れることがあります。これが湯炊き法です。すし飯をサラリと、大量の飯はむらなく…というのが、この炊き方の利点です。