糖尿病 その原因は体質?それとも生活習慣?そして、予防法は?

東京大学大学院医学系研究科
糖尿病・代謝内科教授
門脇 孝先生

 2007年の厚生労働省『国民健康・栄養調査』によると、糖尿病が強く疑われる人(患者数)は約890万人、糖尿病の可能性を否定できない人(糖尿病予備群)は約1320万人とされており、現在、なお、増加しています。いったい、なぜ、2型糖尿病は増え続けているのでしょうか。

糖尿病とは

 私たちは、食べ物からいろいろな栄養素を取り込んで、血液に乗せて体中に分配します。体のエネルギー源となる炭水化物も、同様に消化されてブドウ糖になり、血液によって全身に運ばれます。このとき血液中にブドウ糖がどのくらいあるかを示すのが血糖値です。

 食事をすると血糖値は高まります。するとすい臓からインスリンというホルモンが出て、体の組織がブドウ糖を取り込むのを促し、血糖値はちょうどよい値に保たれます。このとき、インスリンが十分に作られない(インスリン分泌低下)あるいはインスリンの効きが悪い(インスリン抵抗性)ことで、インスリンの働きが不足して血糖が肝臓や筋肉に取り込まれず、血液中にあふれ、血糖値が高いままになってしまうのが糖尿病です(図1)。

<図1 糖尿病発症のメカニズム>

図1 糖尿病発症のメカニズム

 糖尿病のうち、1型糖尿病ではインスリンがまったく作られません。2型糖尿病はインスリン分泌低下とインスリン抵抗性から起こります。日本では糖尿病のおよそ90%が2型糖尿病です。

 糖尿病の最大の問題点は、血糖値を高いままにしておくと、脳卒中や心筋梗塞の原因となる動脈硬化症、あるいは網膜症、神経障害、腎症などの合併症を引き起こすことです。健康寿命を保つためにも、その予防と改善に向けての対策が重要になっています。

2型糖尿病を起こす遺伝的要因

 糖尿病の大部分を占める2型糖尿病については、遺伝的な要因が指摘されています。人間の遺伝子は人により組み合わせが異なっていますが、それが個人の顔かたちや人柄の違いを決めるばかりでなく、肥満や糖尿病のなりやすさとも関係しています。肥満や糖尿病に関係する遺伝子には、食べたものをエネルギーとして消費せずに、脂肪として蓄える倹約遺伝子といわれるものがあります。この倹約遺伝子は、人類が飢餓の時代を生き抜くために獲得した遺伝子で、日本人の多くが持っています。また、日本人は欧米人と比べて、皮下脂肪は少ないが、メタボリックシンドロームや糖尿病と関係する内臓脂肪がつきやすいという体質を持っていることもわかってきました(図2)。

<図2 日本人は欧米人よりも内臓脂肪を溜めやすい>

図2 日本人は欧米人よりも内臓脂肪を溜めやすい

 さらに、日本人を含むアジア人は欧米人に比べてインスリンの分泌が約2分の1と低いのです。これは、昔から肉や脂肪をたくさん食べてきた牧畜民族である欧米人と違い、農耕民族の日本人やアジア人は、最近まで肉や脂肪をそれほど多くとっていなかったため、インスリンを多く出す必要がなかったからです。

2型糖尿病を起こす生活環境要因

 もっとも、こうした体質があるからといって、全員が糖尿病になるわけではありません。2型糖尿病は、糖尿病になりやすい体質を持つ人に、飽食や脂肪のとり過ぎ、運動不足などの生活環境の要因が加わって起こるのです(図3)。

<図3 2型糖尿病急増の背景>

図3 2型糖尿病急増の背景

 最近の日本人の食事をみてみると、1日のエネルギー摂取量は数十年間だいたい同じで、1900kcal程度ですが、この間、エネルギー摂取量に占める脂質摂取の割合は26%ぐらいへと約4倍に増え、動物性脂質の摂取量は5倍近く増えています。一方、ごはんの1人あたりの摂取量をみると、この60年間で約半分程度に減っています。つまり、日本型の食生活から欧米型の食生活に急激に変化したことが糖尿病の大きな増加の背景になっています。そして自動車保有台数などにみられるように、自分で歩かない生活で、身体活動量が低下し、運動不足にもなっています(図4)。こうした生活環境が肥満、特に内臓脂肪型肥満を増加させているのです。

<図4 戦後60年間のエネルギー摂取量、脂質の割合、ごはんの摂取量、自動車保有台数の推移>

図4 戦後60年間のエネルギー摂取量、脂質の割合、ごはんの摂取量、自動車保有台数の推移

 肥満、特に内臓脂肪型肥満では、糖尿病や動脈硬化を抑える善玉のアディポネクチンというホルモンが出にくくなるうえ、インスリン抵抗性を強め、インスリンの働きを悪くします。日本人はもともとインスリン分泌が少ないため、小太り程度のわずかな肥満でも糖尿病になりやすくなります。

 内臓脂肪蓄積があるメタボリックシンドロームの人は、そうでない人に比べて、糖尿病を発症する危険は5倍にもなります。

糖尿病予防は、食生活の改善と運動がポイント

国内での研究によると、糖尿病予備群の人たちに、脂肪制限や体を動かすように指導する際、BMI22の標準体重を目指して食生活の改善を中心に管理栄養士の協力も得て指導したところ、通常の生活指導で少なくともBMI24未満となるよう指導した人たちに比べて体重が1.8s減り、糖尿病の発症も大幅に抑えられました。日本人は糖尿病になりやすいのですが、一方、体重を2〜3s減らすだけで予防効果が高くなることを示しています。

 脂肪の少ない日本型の食生活を心がける。体を動かす習慣を身につける。こうした生活習慣の取り組みは、糖尿病の予防対策の大きな力となるでしょう。

図5 新しい診断基準で慢性の高血糖状態を正確につかむ

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