怖い糖尿病合併症

東京都済生会中央病院
糖尿病臨床研究センター長
渥美 義仁先生

 糖尿病治療の目標は、「合併症を予防し天寿を全うする」、「健康な人と変わらない生活の質を確保する」ことです。

全身に現れるさまざまな合併症

 糖尿病になると、血糖値が高い状態が長く続くことによって、全身に合併症が現れてきます。

 糖尿病の合併症には、血糖値の影響を強く受ける神経障害、血糖値と血圧が強く影響する腎症と網膜症があります。太い血管で起こるものには、高血圧や脂質異常症も強く関わる脳梗塞、心筋梗塞、足の壊疽(組織の壊死)があります。

 このうち糖尿病網膜症は、緑内障と並んで日本人の視覚障害の大きな原因の一つになっています。また、腎症が悪化して腎不全になると、人工透析を受けなければならなくなります。新たに人工透析を受けることになる人たちの約45%が、糖尿病を原因としています。

 糖尿病神経障害は、足のつりや違和感、しびれ、痛みなどの不快な自覚症状があるばかりでなく、症状が進むと水ぶくれ、靴ずれ、たこなどができます。血流が悪くなって足の先まで酸素や栄養が届かなくなると、壊疽に陥ることもあります。

 糖尿病網膜症は自覚症状があまりないので、少しでも異変に気がついたときは、迷わず受診することが大切です。

 また、糖尿病患者は、そうでない人に比べて、狭心症や心筋梗塞になる危険率が3〜5倍も高まることが明らかになっています。

 このように、糖尿病は、合併症を通して、患者の生活の質を下げたり、天寿を全うできなくする危険が多い病気です(図1)。

<図1 日本人糖尿病の死亡時年齢と日本人一般の平均寿命との比較>

図1 日本人糖尿病の死亡時年齢と日本人一般の平均寿命との比較

合併症の予防・改善には、食事・運動療法が基本

 このような合併症が起きないように、また悪化させないために、血糖値を下げ、血圧、脂質などもコントロールすることが大切です。

 糖尿病の治療として、食事療法と運動療法という基本に加え、薬物療法として、経口血糖降下薬や、インスリンやインクレチン関連注射薬を注射する方法があります。こうした治療法別に血糖値の管理がどれだけできたかを比べた研究では、食事・運動療法の効果が最も高く、薬物を用いた治療ではむしろ達成度は低くなっていました(図2)。

<図2 治療法別HbA1c値コントロール分布(2004年5〜7月)>

図2 治療法別HbA1c値コントロール分布(2004年5〜7月)

 特に食事療法では、わが国の食生活を考慮した食品交換表(日本糖尿病学会編)を用いた食事指導が基本になっています。日本の食事をもう一度見直すことも必要です。例えば、和食のダシには、うまみがあって、そのおかげで塩分を抑えてもおいしく食べることができます。また和食は、繊維が多く、たんぱく質の中でもとりわけ魚が多く、栄養のバランスもよいものです。食べ方も、野菜を食べ、魚を食べ、ごはんを食べて、また魚を食べるというちゃんと箸を回して食べる食べ方をしています。

 最近、食後の血糖上昇に着目した低糖質食が議論されていますが、概念が固まっていないこと、継続して実行する難しさ、そして、食事内容のバランスが崩れ腎臓に負担をかけたり動脈硬化を助長する可能性が指摘されていることから、現段階では一般的にはお勧めできません。

 糖尿病の合併症の予防・改善には、受診を欠かさない、体の変化に気をつける、日本型の食生活や運動などの生活習慣の改善に取り組むなど、患者さんの前向きな姿勢が大切です。糖尿病治療は、患者さん自身の“さじ加減”が決め手となるといえるでしょう。


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