肥満・肥満症・メタボリックシンドロームの共通性とその相違

東京逓信病院副院長・内科部長
宮崎 滋先生

肥満・肥満症とメタボリックシンドロームはどう違うのか

 肥満・肥満症とメタボリックシンドロームを正しく理解することは、自分自身の身体の状態を知るために重要なことです。
 日本では、体重(s)を身長(m)の2乗で割って求めるBMI(Body Mass Index ボディ・マス・インデックス)25以上を肥満と呼びます。BMI25以上を肥満とするのは、疾患有病率が最も低いとされるBMI22に対して、各種疾患のリスクが2倍となるからです。しかし、肥満しているだけでは病気ではありません。
 肥満症は「治療しなければならない肥満」です。BMI25以上に加え、肥満が原因で起こった健康障害が1つ以上ある、あるいは内臓脂肪がたまり過ぎている、このいずれかがあれば肥満症と診断されます(図1)。健康障害には、内臓脂肪が原因となる糖尿病や高血圧などや、皮下脂肪が原因となる骨・関節疾患や睡眠時無呼吸症候群などの10項目があります()。

<図1 肥満症診断のフローチャート>

図1 肥満症診断のフローチャート

<表 肥満に起因ないし関連し減量を要する健康障害>

表 肥満に起因ないし関連し減量を要する健康障害

 最近は、単に体重が多いことだけでなく、内臓脂肪の蓄積がより問題とされるようになってきました。メタボリックシンドロームの診断基準は、まさにその内臓脂肪の過剰蓄積に着目したものです。お腹まわりの大きさが男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積が100cm2以上)で、かつ血糖、脂質、血圧の3つのうち2つ以上の項目に異常がある場合がメタボリックシンドロームです。
 この肥満・肥満症・メタボリックシンドロームは、それぞれ独立して存在しているわけではなく、肥満から肥満症へ、肥満症からメタボリックシンドロームへと、段階を経ながら移行し、より危険なほうへと進んでいく関係にあります。

メタボリックシンドロームはより危険な段階です

 肥満症とメタボリックシンドロームは重なり合う部分が多くあります。実際、お腹まわりが85cm以上の男性では、その95%以上がBMI25以上でした。また腹囲85p以上の50〜60歳代の男性では、その60%がメタボリックシンドロームでした。腹囲85p未満で見てみると、メタボリックシンドロームの割合は10%程度でしかありませんでした。逆に、BMI25以上の男性はほとんどの場合、お腹まわりが85cm以上あります。
 摂取エネルギーの過剰と運動不足があって、生活習慣の乱れがあれば、肥満になり、内臓脂肪がたまり、皮下脂肪がたまってきます。特に、内臓脂肪がたまってくると、脂肪細胞は動脈硬化を起こしやすくする悪玉物質を多く分泌するようになり、逆に動脈硬化を防ぐ働きをしてくれる善玉物質は少なくなります。その結果、高血圧、高血糖、脂質異常、脂肪肝、高尿酸血症などの病気を発症しやすくなります。これを放置すると、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病などの合併症までどんどん進んでしまい、さらには大腸ガンや乳ガンなどのガンにもかかりやすくなる、という流れになります。
 特に、日本人はBMIが25〜30程度の軽度の肥満でも、内臓脂肪がたまりやすいとされていますので、注意が必要なのです。

ごはんを中心とした食生活は優れた肥満予防対策

 もともと日本人は、肉や脂肪の多い食事をとってきませんでした。肥満症やメタボリックシンドロームが増えてきた背景には、急速な食の欧米化があります。牛乳・乳製品、肉類などの動物性脂肪の多い食品をとる機会が増え、その一方で、日常生活の中で体を動かす機会が減りました。それが、肥満症やメタボリックシンドロームが増えた理由です。
 現在、日本人の米の摂取量は1910年代の約半分になっています(図2)。

<図2 日本人の食生活の変化:食の欧米化によって、牛乳・乳製品、肉類など動物性脂肪の多い食品の摂取量が増え、米の摂取量は減少した>

図2 日本人の食生活の変化:食の欧米化によって、牛乳・乳製品、肉類など動物性脂肪の多い食品の摂取量が増え、米の摂取量は減少した

 ごはんを中心とした日本型の食生活は、脂質をおさえ、魚や野菜などの食材とバランスよく組み合わせることができ、植物性たんぱく質も十分にとることができます。内臓脂肪を減らして肥満を防ぐ食習慣として、ごはんを主食とした日本型の食事のメリットを見直したいものです。


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