ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
研究調査一覧
抗酸化効果をもつ米からの機能性飲食品用素材の開発
勇心酒造株式会社 代表取締役 徳山 孝
研究目的

米は、日本人の主食であり、また古くから先人の知恵の結晶として、麹、味噌、味醂、清酒、酢等に利用されてきた。しかし、近代科学が導入されて以降、新しい用途開発、素材開発は全くなされていない。また、一人当たりの米消費量は毎年減少傾向にある一方、生産は過剰基調で推移しており、米の新規用途を創出することは急務となっている。
かねてより私たちは、米のもつ潜在的な効能・効果に着目し、新たな観点から米の総合利用研究に取り組んできた。即ち、複数の生命機能を組み合わすことにより、全体で全く新しい生命機能系を創出し、新規な効能効果を生み出すものである。この研究の中から、米からの抗潰瘍性素材(ライスパワーNo.101と命名)の開発、実用化に成功し、現在、これを用いて清酒やビールが開発されている。この方法の最大の特徴は、人体にも、地球にも安全であり、且つお米ゆえ、あらゆる用途に利用できることである。
この中でライスパワーNo.102と命名された素材は、In Vitroで、抗酸化効果を持つことが認められている。本技術開発においては、さらに細胞レベル、動物レベルでの研究を進めることにより、抗酸化効果をもつ実用素材を開発し、これを原料として抗酸化効果を有する機能性飲料・食品を開発することにより、米の消費拡大をはかろうとするものである。
活性酸素は、白血球による殺菌作用のように生体防御機構として利用される反面、過剰生産されると様々な障害を引き起こすことが明らかとなっている。
活性酸素は、生体内においては、発癌、虚血性疾患、糖尿病など生活習慣病の発症や、老化の原因にもなり、また皮膚においては、シミ、シワや皮膚老化の原因になる。
また活性酸素により脂質が酸化されできた過酸化脂質は、血中で生じると動脈硬化の重要因子となる。狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの血管性の病気や、糖尿病、高脂血症、抗尿酸血症、痛風、肥満、脂肪肝、急性肝炎、甲状腺機能障害、慢性関節リウマチ、慢性腎炎、潰瘍性大腸癌など様々な病気で、血中の過酸化脂質が高値になっていることが示されている。
活性酸素は上述のように、直接的・間接的に生体に対して有害な作用を有するため、防御系である抗酸化は非常に重要な機能である。加えて、高齢化社会を迎え、また文明化により様々なストレスが加わり活性酸素が過剰に生産される傾向にある現在、抗酸化機能はますます重要となっている。そこで、抗酸化効果が高く、しかも安全性が約束されている米からの機能性飲食品の開発が必須である。

方法
(1)米を原料とする抗酸化性飲食品素材の製造技術の開発
 

素材の製法においては、うるち米、もち米における効果の差、原料米の使用部位の違いによる効果の差(米の胚芽部分を含む玄米と、胚芽、赤糠を取り除いた白米における効果の違い)について検討を行った。また使用する麹カビは清酒、味噌、醤油などの発酵食品に使用されているAspergillus.oryzae を用いた。
はじめに麹カビを37〜38℃で、2〜3日間固体培養した後水抽出し、生理活性物質を得た。次に玄米(うるち米、もち米)又は白米にこの生理活性物質を作用させ、加温し、沸騰抽出を行い、玄米(うるち米)抽出物、玄米(もち米)抽出物、白米(うるち米)抽出物を各々を得た。

 
原  料: 玄米(うるち米、もち米)、白米(うるち米)
麹  菌: Aspergillus.oryzae (長毛菌、短毛菌)
培養条件: 37〜38℃、2〜3日間

(2)米を原料とする抗酸化性飲食品素材の活性酸素産生に及ぼす影響
 

体重350gのWister系雄性ラットの頸動脈より、EDTA含有polypropylenetube採血し、全血からpercoll密度勾配遠心法により好中球を85%以上の純度で精製した。精製した好中球を米抽出物とウミホタルのルシフェリン誘導体であるMCLA0.41Mとともに3分間incubateした後にLumicounter(ATP-237)にサンプルを入れ、5秒後にfMLP2.51Mを添加してMCLA依存性の化学発光を測定し、活性酸素産生量の指標とした。


(3)米を原料とする抗酸化性飲食品素材の活性酸素消去系に及ぼす影響
 

4週齢のddy系雄性マウスを、室温25℃、湿度60%に保たれた動物室で1週間、飼料及び水を自由摂取させて飼育した後、実験に供した。1群10匹で行った。米抽出物は、一日一回午前10時に一群当たり20mLを給水瓶に入れ、自由摂取させた。投与4週間後に体重を測定し、エーテル麻酔下頸動脈より全血採取し定量操作に必要な処理をした後、血清中の還元型グルタチオン濃度、過酸化脂質量及びSOD活性を測定した。還元型グルタチオン濃度、SOD活性はSRLに分析を依頼し、過酸化脂質量は、TBA法により定量した。

結果
(1)米を原料とする抗酸化性飲食品素材の活性酸素産生に及ぼす影響
 

ラットの血中から好中球を精製し、米抽出物の活性酸素産生に及ぼす影響についてコントロールと比較した。 MCLA依存性の化学発光はfMLP添加直後より増大し、約15秒後に最大になった。玄米(うるち米)抽出物、玄米(もち米)抽出物、白米(うるち米)抽出物を各々0.5ml/5ml添加すると、いずれもfMLPによるMCLA依存性の化学発光をコントロールと比較して著明に抑制した。原料及び使用部位による効果の違いに有意な差は認められなかった(図1)。


(2)米を原料とする抗酸性飲食品素材の活性酸素消去系に及ぼす影響
 

マウスに各米抽出物を4週間自由投与したところ、投与期間中に異常はみられず、投与終了後体重変化を確認した結果、体重変動には有意な影響を及ぼさなかった。
次に採血し、内因性抗酸化能に関与する成分・酵素活性を調べた。この結果、各米抽出物は血中SOD活性を1.6〜2.2倍増加させ(図2)、還元型グルタチオン濃度も1.6 〜2.1倍増加させた(図3)。また、血中過酸化脂質量を30〜50%減少させた(図4)。うるち米ともち米、また玄米と白米において効果の違いに顕著な差は認められなかった。

考察

米抽出物はラット好中球におけるfMLPによるMCLA依存性の化学発光を抑制した。このことから、本素材はsuperoxide anion産生に対して抑制効果をもつことが明らかとなった。また米抽出物を、マウスに4週間自由投与すると、血中においてSOD活性上昇、還元型グルタチオン増加、過酸化脂質減少効果が認められた。このことから、米抽出物は生体内において発生した活性酸素を消去する効果をもつことが判明した。還元型グルタチオンはグルタチオンペルオキシターゼと協力して過酸化水素や過酸化脂質を消去する働きを持っている。従って米抽出物はSOD活性を上昇させ、還元型グルタチオンを増加させた結果、過酸化脂質を減少させるものと考えられた。なお、投与期間中マウスに異常はみられず、また体重変動にも影響を及ぼさなかったことから、副作用、肥満や食欲減退などがないことも確認された。
以上の結果、米抽出物は活性酸素発生系、発生した活性酸素消去系の双方に働くことにより、理想的に活性酸素の害を抑制し、酸化ストレスから身体を守ることが判明した。
また、うるち米、もち米での効果の違いは認められず、使用部位の違い(玄米、白米)においても効果の有意な差は認められなかった。玄米、白米において効果の差がないことから、米抽出物の抗酸化有効成分は、胚芽、赤糠に由来する成分ではなく、白米に含まれる成分であることが示唆された。従来、1−オリザノール、トコフェロール等、胚芽、赤糠に由来する成分の生理活性が注目されてきたが、白米にこのような抗酸化作用があることは知られていなかった。この効果は、米に複数の微生物(本素材においては複数の麹カビ)から得た生理活性成分を作用させ、有効成分を充分に抽出することにより得られる効果と考えられた。
米の新規機能性に着目した本技術開発により、従来にない米の用途が生まれ、その結果米の消費拡大につながる。一方現在、食品の技術開発は遺伝子組み合え等が中心となっているが、これらは従来地球上になかったものでり、人に対する安全性とともに地球環境に与える影響が問題となっている。この様な背景の中、日本人が2000年来主食として食してきた米を原料とし、伝統的に培われてきた発酵技術と科学を合一して生まれた本素材は、優れた機能をもつ上、安全性が非常に高く、人にも地球環境にも弊害を与えることがないため人々に広く受け入れられ、健康維持、疾病予防に寄与できる素材である。

要約

米のもつ潜在的な効能・効果を、従来発酵食品に使用されてきた複数の微生物との反応抽出・発酵により創出し、生体内において抗酸化効果を発揮する飲食品用素材の開発を行った。
素材は、複数の麹カビから生理活性物質を抽出し、原料米に作用させ抽出を行うことにより得た。原料米の種類、使用部位による効果の差をみるため、玄米(うるち米、もち米)、白米を使用した。得られた各米抽出物を用い、抗酸化効果について細胞レベル、動物実験による検討を加えた。
まずラットの血中から好中球を精製し、本素材効果をみたところ、いずれも活性酸素産生を顕著に抑制することが判明した。
次に、マウスに本素材を4週間継続投与した後採血し、内因性抗酸化能に関与する成分・酵素活性を調べたところ、SOD活性上昇、還元型グルタチオン増加、過酸化脂質減少が認められた。過酸化脂質は活性酸素の作用により生成される。本素材は、SOD活性を上昇させ、還元型グルタチオンを増加させた結果、過酸化脂質を減少させると考えられた。
以上の結果、本素材は1活性酸素発生系、2発生した活性酸素消去系に働くことにより、理想的に活性酸素の害を抑制し、酸化ストレスから身体を守ることが判明した。

文献等

特になし。


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