ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
研究調査一覧
米食と小児の健康に関する研究─アレルギー疾患児における食生活の実態調査
昭和大学医学部小児科 教授 飯倉洋治
研究協力者:坂本泰寿今井孝成中川和子小田島安平
研究の目的

アレルギー疾患は現在、小児の慢性疾患の中で最も患者数が多い疾患であり、近年増加が著しい。アレルギー疾患児の増加と食、家族構成、住居環境などの変化が密接に関係していることが報告されている(1)。しかし、これらの因子がどの様に関係しているかの追及は十分に明らかにされていない。疫学調査はわずかに気管支喘息になされているに過ぎない。どのような食物が即時型アレルギーの原因になっているかの調査によると、本邦における即時型アレルギー反応に対する食物抗原は、従来第3位であった大豆が後退し、1位が卵、2位が牛乳、小麦が3位に上昇した(2)。
また、平成12年度より、食生活に関して小学生を対象とした大規模な調査を行った。その結果、アレルギー疾患児のチーズ摂取率は、健康児と比較して有意に高かった。このことは、パン(小麦)の摂取増加に伴い、副食も変わってきたと考えられる。そこで今回は、いくつかの異なる地域で小児科を標榜している医療機関を対象に、アレルギー疾患児と非アレルギー疾患児を対象にアンケート調査を行い、食生活の実態を調査した。

方法

全国16の小児科を専門としている医療機関を、平成14年1月4日から平成14年1月31日までの間に何らかの理由で受診した小児患者2,652人である。
全国16の小児科を専門としている医療機関、即ち岐阜大学小児科、岐阜県大垣市民病院小児科、名古屋第二赤十字病院小児科、国立相模原病院小児科、国立小児病院アレルギー科、国立療養所東埼玉病院小児科、町田市民病院小児科、鶴岡共立病院小児科、東京都立荏原病院小児科、東京慈恵会医科大学小児科、千葉県立こども病院小児科、山口大学医学部小児科、敬愛会中頭病院小児科、かわきた小児科、高知医科大小児科、昭和大学医学部小児科に御協力を頂き、18項目、すなわち、アレルギー疾患の有無、朝食夕食の主食の摂取率及びさまざまな副食の摂取率、母親のアレルギー罹患歴、家族構成、児の性格などの項目について調査を行った。アレルギー疾患児と非アレルギー疾患児で食生活の実態を比較した。

解析

データーの解析はマイクロソフト社のEXCELを使用し、統計学的検討はStatViewソフト、カイ二乗検定にて解析した。統計学的有意差はp<0.05とした。

結果
1

患者背景に関して:平均年齢は表1のごとくアレルギー疾患児では7.36±6.21歳、非アレルギー疾患児では5.86±5.99歳であった。性別はアレルギー疾患児の男児896人(55.8%)、女児707人(44.1%)であった。一方、非アレルギー疾患児に関しては男児520人(49.5%)、女児529人(50.4%)で、兄弟数はアレルギー疾患児2±0.81人、非アレルギー疾患児2±0.83人であった。母親の年齢はそれぞれ36.4±6.02歳と34.4±5.83歳であった。

2

アレルギー疾患の内訳に関して:図1のごとく食物アレルギー409人、アトピー性皮膚炎680人、気管支喘息1,071人、蕁麻疹45人、アレルギー性鼻炎324人、アレルギー性結膜炎87人、花粉症109人であった。食物アレルギー409人の原因食物は図2のごとく卵、牛乳、小麦の順で多かった。

3

家庭での除去食品の内訳に関して:図3のごとく卵、牛乳が高く、小麦がその次に多かった。

4

朝食の摂取率と主食の比較に関して:図4のごとく毎日朝食を摂取している割合は、アレルギー疾患児1,533人(95.6%)、非アレルギー疾患児9,803人(93.4%)であった。
朝食を毎日食べない子供は、アレルギー疾患児705人(4.4%)、非アレルギー疾患児では687人(6.6%)であった。
また朝食を両親と一緒に食べているか否かの検討:表2のごとくアレルギー児は非アレルギー児に比べ有意に食べていないものが多かった(p<0.01)。

5

副食に関して:図5のごとくチーズ、ジャム、ハムにおいては、アレルギー疾患児の摂取率が有意に高かった、(p<0.01)。一方、卵においては非アレルギー疾患児のほうが摂取率が高かった。

6

夕食摂取に関して:図6のごとく、毎日夕飯を摂取している割合はアレルギー疾患児では1,587人(99%)、非アレルギー疾患児では、996人(95%)で有意差はなかった。
夕飯を食べない割合の比較でも有意差はなかった。また、夕飯の主食の検討では、ご飯を毎晩食べる割合はアレルギー疾患児1,125人(70.2%)、非アレルギー疾患児751人(71.6%)であった。ご飯を時々食べる割合はアレルギー疾患児466人(29.4%)、非アレルギー疾患児296人(28.2%)であった。ご飯を食べない児が15人いたが、その理由としては塾へいっているためと、作るのが面倒くさいという理由であった。
一方夕飯にパンを主食にしている児童の検討では、アレルギー疾患児は270人(16.9%)で非アレルギー疾患児126人(12.4%)に比べ有意に高かった(p<0.01)。パン食を時々食べる割合はアレルギー疾患児1,102人(68.8%)で非アレルギー疾患児794人(75.7%)で差がなかった。
また、ファーストフードの摂取率においては、アレルギー疾患児51人(3.2%)と非アレルギー疾患児が23人(2.2%)で有意差がみられなかった。朝食を子供のみで食べている割合は表2のごとく、アレルギー疾患児424人(26.4%)、非アレルギー疾患児103人(32.2%)であった。夕食を子供のみで食べている割合は、アレルギー疾患児は197人(12.2%)、非アレルギー疾患児は103人(9.8%)で、朝食のほうが両群とも子供のみで食べている割合が多かった。また、両親とも仕事をしている家庭はアレルギー疾患児470人(29.3%)、非アレルギー疾患児では352人(33.5%)であった。

7

母親のアレルギー疾患の有無に関して:図7のごとくアレルギー性結膜炎をのぞいて、食物アレルギーの割合はアレルギー疾患児の母親95人(5.9%)のほうが、非アレルギー疾患児の母親34人(3.2%)より有意に多かった(p<0.01)。
同様にアトピー性皮膚炎ではアレルギー疾患児の母親167人(10.4%)のほうが、非アレルギー疾患児の母親50人(4.8%)より有意に多かった(p<0.01)。
気管支喘息に関してはアレルギー疾患児の母親170人(10.6%)のほうが非アレルギー疾患児の母親46人(4.4%)より有意に多かった(p<0.01)。
アレルギー性鼻炎においてもアレルギー疾患児の母親267人(16.7%)のほうが非アレルギー疾患児の母親111人(10.6%)より有意に多かった(p<0.01)。
花粉症でもアレルギー疾患児の母親333人(20.8%)のほうが非アレルギー疾患児の母親22人(2.1%)より有意に多かった(p<0.01)。

8

母親の食物アレルギーの内訳に関して:図8のごとく食物アレルギーをもつアレルギー疾患児の母親では卵の摂取率が有意に高かった(p<0.01)。両群の食物アレルギーの原因食品では、牛乳、小麦、大豆の順で有意差なく出現していた。

9

アレルギー疾患児の母親と非アレルギー疾患児の母親における小児期の主食の検討に関して:図9のごとくアレルギー疾患児の母親の小児期におけるご飯の摂取率は925人(57.7%)、非アレルギー疾患児の母親の小児期におけるご飯の摂取率560人(53.4%)で差がなかった。
アレルギー疾患児の母親の小児期におけるパンの摂取率38人(2.4%)、非アレルギー疾患児の母親の小児期におけるパンの摂取率24人(2.3%)であった。
小児期における、ご飯とパンの両方の摂取率はアレルギー疾患児の母親251人(15.7%)、非アレルギー疾患児の母親173人(16.5%)であった。

10

母親からみた子供の性格に関して:図10のごとく活発さ、元気、おとなしい、怒りっぽい、乱暴に関し児の性格を調査した。
活発さ、元気さに関して、アレルギー疾患児721人(45%)のほうが、非アレルギー疾患児639人(61%)に比べ有意に低かった(p<0.01)。またおとなしいと答えたのは、アレルギー疾患児513人(32%)、非アレルギー疾患児329人(31.4%)であった。
怒りっぽいと答えたのはアレルギー疾患児340人(21.2%)、非アレルギー疾患児216人(20.6%)であった。
乱暴と答えたのはアレルギー疾患児24人(1.5%)、非アレルギー疾患児24人(2.3%)であった。
無関心と答えたのはアレルギー疾患児2人(0.1%)、非アレルギー疾患児5人(0.57%)であった。

11

ご飯食、パン食による性格の比較に関して:活発さに関してはご飯食957人(51%)、パン食202人(49.7%)であった.おとなしいと答えたのはご飯食882人(51%)、パン食205人(50.3%)であった。

考察

今回我々は、全国16の小児科専門医を標榜している医療機関を受診した患者、2,652人を対象に食に関するアンケート調査をした。何らかのアレルギー疾患を患っている患児は、1,603人で全体の60.4%であった。その内訳は気管支喘息が多く、順にアトピー性皮膚炎、食物アレルギーであった。また、花粉症も含めると、鼻症状を呈するものが4位であった(図1)。前年度の品川区の児童の調査では食物アレルギーが5位であったが、今回の調査では3位と上昇していた。この結果は今回の調査は病児を対象に行ったために食物アレルギーが多いと考えられた。また食物抗原は卵、牛乳、小麦の順で小麦が第3位となっていた。このことは前回の報告と同様の結果で、食習慣が変化してきた結果と言える。また、子供のみで朝食を食べる率が、アレルギー疾患児では26.4%、非アレルギー疾患児は32.2%であった。この理由としては両親共に働いているため、朝忙しく時間がないことが理由として考えられ、次いで、子供の起床時間が遅く、朝食を食べる時間がない等が原因であった。村田らも国民栄養調査の成績から朝食を欠食する率は、昔から今にかけて3.6%から17.2%であると報告し、現在の小児の相当数が、朝食を欠食しているのではないかと考察している(3)。朝食の副食に関する検討で、アレルギー疾患児において、チーズ、ジャム、ハムの摂取率が有意に高かった(p<0.01)。一方で、卵の摂取率は有意に低かった。この結果は興味あるもので、昨年度の品川区の調査と全国的調査と似ていて 、チーズを食べているアレルギー児が非常に多いことである。また、病児を対象に調査したことから、食物アレルギーもより多く合併し、なおかつ除去食の割合は全体の食物アレルギー患者の半数以上も超えていた。
一方で、前回の大規模な調査結果から、世代が新しくなるにつれご飯食の摂取率が低下し、これに伴ってパン食の摂取率が増加してきたことから推察すると、主食のパンに合う副食、即ち、チーズ、ハムやジャムなどの加工食品の摂取率が増加してくるのは当然である。特に食物アレルギーを患っていて、なおかつ、除去食がなされている児にたいしては、これらの安易な加工食品が過剰に与えられるのが現状である。よって、これらの加工食品を過剰に摂取することで、成分中に多く含まれる食品安定剤や添加物などの成分が、アレルギー疾患発症の危険因子である可能性も大きい。特にチーズは成分の大半がカゼインでできており、高分子領域のみならず低分子領域にも抗原性を持ち(4)、粘膜から容易に吸収される。それゆえ、これらの食品の過剰摂取は、新たな食物アレルギーを生み出す危険因子であると思われた。一方、夕食は両群ともほとんど毎日摂取しているが、アレルギー児において、パン食の摂取率が有意に多かった(p<0.01)。この結果は今まで報告がなくアレルギー疾患の増加に何らかの関係があるのではないかと推察される。
また、夕飯を作らない理由としてはアレルギー疾患児で「食物アレルギーで除去が多いから」というのではなく、塾や作るのが面倒くさいという答えであった。非アレルギー児においても、理由は同じであった。この理由も重要で、塾に行っている児がファーストフードで夕食を摂っている率が増加してきていると考えられる。
今回の調査結果からアレルギー疾患児のみならず非アレルギー疾患児も、子供のみで朝食を食べる率が約3割にのぼっていることは、ごはん食の摂取率の低下につながっているものと考えられた。即ち、パン食や、加工食品といった安易な食品を、少し食べては学校へ登校するという現象が生じていると考えられる。衛藤らは、現代の小児においては体格の著しい向上がみられる一方で、体力、運動能力の低下が認められ、その背景には生活時間の多忙化と夜型化が存在していると報告している(5)。このことは生活が多様化することで食生活も変化し、今後注意すべき点と言える。今回は児童の調査であるが、母親が食事を作ることを考えると母親のアレルギー疾患の有無も検討しておく必要がある。この視点から検討すると図7の如く、母親にアレルギー疾患を持っているものが多く、なおかつ、卵、牛乳、小麦、大豆などの食物アレルギー既往歴のあるものが多かった。その食生活が子に引き継がれ、朝食(主食)はご飯食から手軽なパン食へ、副食はパンに合うチーズやハム、ジャムなどの加工食品へ置き換わってきていることが判明した。結果として、新たなアレルギー疾患児を増大させているものと考えられた。アレルギー児は非アレルギー児と比較すると活発さ、元気さに欠けることが判明した(p<0.01)。このことは重要なことで、食が子供の体力に影響を及ぼし性格に影響するといった極めて興味ある結果であった。この結果から現代病と言われているアレルギー疾患の予防には日常生活における食生活の見直しも重要といえる結果であった。

まとめ

何らかの疾患を有する児童の食生活に関する調査を行った結果、アレルギー疾患児の夕食でパン食が有意に多かった。また副食のチーズ、ハム、ジャムの摂取がアレルギー疾患児に有意に多かったことは、健康な子供の集団調査とも一致し、チーズの摂取とアレルギー疾患児の関係は深い関係があるものといえる。

参考文献
1)

三河春樹。:小児アレルギー総論;臨床アレルギー学:宮本昭正編集、414-419,1992。

2)

Iikura Y et al。:Frequency of immediate-type food allergy in children in Japan。 Int Arch Allergy Immunol(118);251-252,1999。

3)

村田光載。:小児科医からみたこどもの生活習慣病。小児科診療(8);815-821,2000。

4)

坂本泰寿他。:少量のチーズ摂取にてアナフィラキシー反応を呈した牛乳に耐性を獲得しつつあるチーズアレルギー。小児科(39);871-879,1998。

5)

衛藤隆。:こどもの生活習慣病の疫学と行政。小児科診療(6);803-808,2000。


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